「は、ははっ…だ、めだ…」
そう吐き捨てて額に手を当てる。
戦闘による粉塵と硝煙で濁った空を見上げて、悲しくなる。
このルートを通ってアジトに戻るのは、親友だった男しか知らない。
なのに、あらかじめ知っていたかのようにブリタニア兵に取り囲まれた。
もしかすると偶然かも知れない、たまたまこのルートを予測した指揮官がいたの
かもしれない。
そう思いたかったのに
『残念だったな!気付かなかったのか、お前は売られたんだよ』
気づきたくなかったその現実を突き付けられ、愕然とした。
あとはもう夢中で、逃げることしか考えられなかった。
生きて、帰って、妹に会うと約束していたから…
「ッくしょぉ…んで、だよぉっ!」
目がかすむ、思考が奪われていく。
終わりたくない、それなのに、体の力は抜けていった。
***
「リヴァル、バイク止めてくれ」
「へ?」
「人が倒れてる。」
思わず止めた後にしまった、と気づいた時には遅かった。
サイドカーにヘルメットが投げ出され、すでに彼はゲットーの方へと駆けだして
いた。
「ぉ、おい!!授業遅れる、ってかそっちあぶねえって!」
慌ててエンジンを切ってそのあとを追いかける。
遠くの方から銃声が聞こえて肩をすくませた。
「やべえって、ルルーシュ。」
「息はあるが…出血がひどいなリヴァル、運ぶのを手伝ってくれ」
「ルルーシュ、そいつテロリストだって!軍が」
「だから、気づかれる前に運ぶんだ。それとも見殺しにするのか?」
ふてくされたような顔で言われて思わずたじろぐが。
「危ない奴だったらどうするんだよ!っていうかテロやってるぐらいなんだから
」
「リヴァル…」
じぃっと見つめられてしまうともう何も言い返せない。
「……はぁ、動物とかあんまり好きじゃねー癖に、なんで捨ててあるの見ると拾
っちまうかねぇ」
「嫌いじゃないさ。それに、見つけて見殺しにするのは気分が悪い」
「はいはい、お前はそういうやつだよな。」
出血個所を軽く圧迫して止血する。
傷は銃によるものがほとんどで、骨が折れていないというのは幸いか。
ほとんど引きずるようにしてサイドカーに乗せると、ルルーシュはさも当然と言
わんばかりにリヴァルの後ろにまたがった。
「まさか、初めてのタンデムがルルーシュとはね」
「何か文句でも?」
「ありませんよー、副会長様」
++++++++++
目が覚めて、これは何かの夢かと思った。
「お目覚めですか?」
と声を掛けてきたのはメイドキャップをかぶった日本人女性。
日の光が差し込む大きめの窓。
消毒液の匂いがするその部屋は、これまでナオトが無縁だった世界のものだ。
「ここは」
「ここはアッシュフォード学園です。一週間ほど前に、私の主があなたを運んで
まいりました。」
「主…ってことは、ここの校長か理事か?」
「いえ、まだ学生のご身分です」
「学生…」
よくもまぁ、ただの学生がこんな如何にも怪しい男を拾う気になったものだ。
自分ならたぶん拾わない、確実に見殺しにするか軍に通報している。
その自分が、今ここにいることを考えると、その拾った学生はよほどのお人よし
か、主義者か。
「咲世子さんナナリーが…あぁ、目が覚めたんですね?」
「…ども、なんか助けてもらったみたいで」
体を起こそうとすると、そのままでいいというように彼は手を振って、メイドを
下がらせた。
「気分はどうですか?」
「微妙ってところだな。君が、俺を?」
「ええ、友人に手伝ってもらって。ここは軍の目も届きませんし、安心して下さ
って結構ですよ」
そこまでしてもらう理由が分からず、ナオトはただいぶかしげに彼を見つめた。
主義者、というには雰囲気もそれらしくない。
「どうして俺を助けたんだ?俺は、」
「イレブン、とか」
与えられたそのナンバーに思わず眉を寄せた。
だが彼はそれに気づいているのかいないのか苦笑しながら言葉を続ける。
「イレブンとか、そういうの嫌いなんです。かといって、主義者のようにただ同
情を向けるのも好きじゃない。あなたを助けたのは、俺なりに思うところがあっ
てのことです。」
「つまり、体が動くようになったら、それなりに返す物は返せよってことか?」
ナオトがそう尋ねると、彼はにっこりとほほ笑んだ。
「頭のいい人は、嫌いじゃありません」
*****
「そうして、俺は救われたんだ。彼に」
ゼロの中身は紅月ナオト。
その仮面の下にあるのがてっきりブリタニア人の顔だと思っていただけに、全員
が戸惑いの表情を見せてシュナイゼルと扇を見ていた。
「っち、ちがう!彼はギアスに、ギアスに掛けられて」
「扇、お前はいつもそうだったよな、学生の頃から。」
死んだ兄を前にして、言葉もないカレンに仮面を預けてナオトは扇の方へ歩み寄
る。
「いつも何かに寄生するようにして生きて、強いものに流されて何度でも手のひ
らを返す。」
「黙れ!!」
「今までは、ゼロが最強だった。だが、シュナイゼルが現れた。わかってるよ、
お前が意図してそうしているんじゃないって。だからこそ余計にたちが悪い。」
1年振り以上に相対するナオトに、扇は顔を青ざめさせていた。
「俺は、お前に裏切られ彼に救われた。それは俺だけじゃない、他にも何人かい
る。だから、俺は新しい組織を作った。」
ナオトが腕を掲げると同時に何機かのKMFが天井を突き破って現れた。
見たこともないタイプの、黒と紫で整えられたKMF。
コックピットブロックが開いて、其処から現れた姿に全員息をのんだ。
「永田?!」
「卜部、それに仙波まで!!」
そのほかの数名は知らない顔ばかりだが、ブリタニア人も日本人も、完全に混在
した集団。
「それが、零の騎士団」
吹き込む風にナオトの髪があおられた。
彼はただ、扇に冷たい一瞥をくれてやると背を向けて永田のKMFへ向かい引き上
げてもらう。
「ゼロ、いや…ルルーシュは俺たちがもらう。もう誰にも傷つけさせない。」
「ナオト、ロロから連絡が来た。ルルーシュは例の場所に。」
「分かった。それじゃあ」「お兄ちゃん!!」
叫ぶように聞こえた呼びかけに、ナオトはすっかり忘れていたとでも言わんばか
りに振り返った。
「お兄ちゃん、私も一緒に「カレン」」
ナオトはゼロの衣装のまま、マントをはためかせてカレンを見下ろす、そこに家
族としての情は欠片も見当たらない。
「お前は、どうして俺と来たいのか、よく考えろ。悩め、頭を使え、思考するこ
とを止めるんじゃない。兄としての俺じゃない。クラスメイトとしてのルルーシ
ュじゃない。指揮官としての俺と、ルルーシュの掲げる思想に従える、と本当に
そう思えた時になったら、いつでも歓迎しよう。」
ゼロの仮面が投げ捨てられる。
その音を合図に、KMFが浮上した。
「卜部っ、仙波!!なぜ、お前たちは!!あの男はっ、朝比奈を!!」
声を張り上げる千葉と、ただ見送るだけの藤堂に視線を向けて二人は苦笑いと共
に会釈をするとナオトたちの後に続き、空へ舞い戻った。
その2ヵ月後、彼らはテレビに映った零の騎士団を見ることとなった。
新皇帝として即位したルルーシュの周りを取り囲み、誇らしげに立つ彼らの姿を
。