::温もり::
ハァと息を吹きかけ、指先をこすり合わせる。
そんなことをしてもすぐにまた冷えるだけだとわかっていながら、そうせずにはいられない。
手袋を忘れたのは痛手だった。
この分だと明け方には雪が降るかもしれないと思いながら暗い空を見上げる。
夏は夏で暑かったが、時折吹きぬける風が心地よかった。
冬は・・・少々寒さが堪えるかもしれない。
ルルーシュはもう一度手に息を吐きかけた。
そこで、ようやく待ち人がこちらに来るのを見つけて手をおろす。
相手もルルーシュを見つけたのだろう、少しばかり足を速めてルルーシュの前へと駆けてくる。
「待たせたか?」
「いえ、そんなには」
そう言いきる前に藤堂はルルーシュの手を取り、眉間にしわを寄せた。
「その割には随分と冷えている。」
「・・・ちょっと、早く来てしまったので。」
藤堂の手はルルーシュの手よりもずいぶん暖かかった。
反対の手も藤堂は取り両手で包みこむ。
「少しくらい、遅れてきても構わないんだぞ」
「いえ・・・俺が、その・・・早く会いたかっただけなんです。」
いつもは、アジトかもしくはアジトからはそう離れていない廃墟。
そんなに多く時間もとれないことを藤堂も知っているため、藤堂からその誘いが掛けられることは稀なことだ。
たいていは、ルルーシュが仕事のスケジュールを組んで、その空いた時間に藤堂がルルーシュを連れて人目のない場所へ行く。
めったにない藤堂からの誘いに、少し浮かれていたのかもしれないな、とルルーシュは温もりが広がってくる手のひらへ視線を向けながら苦笑した。
「・・・そう思ってくれるのは嬉しいが・・・それで君が寒さに凍えているのでは俺の方が心配になる。」
「・・・気をつけます。」
肩をすくめるルルーシュに藤堂は一つ口づけを落とす。
分け与えられる熱が心地よく、溶けてしまいそうで、ルルーシュも藤堂の背に腕をまわした。
「やっぱり・・・少し冷えてるな。そろそろ行こうか」
そう言って移動するのはいつも使っている廃屋の一つ。
離れていく熱を名残惜しいと思いながら、ルルーシュもうなずいて離れる。
離れてしまったとたんに熱が恋しくなった。
その考えを、藤堂は見透かしていたのか藤堂はルルーシュの手を取り引き寄せる。
「こうしていれば、少しは暖かいだろう?」
何を、と思ったとたん、ルルーシュの手は繋がれたまま藤堂のポケットの中へ入れられた。
「と、藤堂さん?!ちょ、子供じゃあるまいし」
「いいだろう?誰も見ていないんだ」
「そ、それはそうかもしれませんけど・・・」
だが無性に恥ずかしくて仕方がない。
顔を真っ赤にして俯くルルーシュに藤堂は苦笑をこぼし、心底愛おしいと目を細めてもう一つ、ルルーシュの髪へ口づけをした。
*****
いつもの廃屋のいつもの部屋の一つ。
たいていこの部屋へ来るときは、二人で時間を示し合わせてなので、部屋へ入って来たばかりの時には少しばかり寒い。
だが、今日は少し部屋の中が暖まっていた。
「まだ少し寒いな」
「先に来ていたんですか?なら、俺がこっちへ来ても良かったのに」
「いや、俺が迎えに行きたかったんだ。」
藤堂はそう言いながらソファへルルーシュを座らせる。
鍵も付けてあるため、ほぼ別宅と言っても支障のない程度に環境は整っている。
「今日は本当にどうしたんですか?」
「わからないか・・・?」
きょとんと目を開いて首をかしげるルルーシュに苦笑しながらまた一つこめかみへ口づけを落とす。
自分のことには無頓着なルルーシュだから、仕方のないことなのかも知れないが。
「今日は何の日だ?」
問いかけられ、ルルーシュは俯きブツブツと今月の予定をつぶやき始める。
どうにも思い当らないのか顔をあげたルルーシュは眉をよせて、「何かあったか?」と真剣に尋ねてくる。
「今日は、君の誕生日だろう?」
「たんじょう・・・」
その意味を呑み込めたのか、一瞬表情を曇らせる。
「そうか・・・今日は、俺の誕生日か・・・」
「ああ・・・」
あえて何も言わず、藤堂はルルーシュの横へ座り細い体を抱き寄せる。
トン、とルルーシュは藤堂の肩に頭を預けて目を伏せた。
藤堂よりもずっと幼いその体には、藤堂には想像もできないほどの苦しみと悲しみが詰まっている。
「祝っても、いいか?」
「・・・・・・祝われても、いいんでしょうか・・・俺なんかが」
「当然だ・・・。ああ、言い方が違ったな。俺が祝わせてほしいんだ。」
ルルーシュの細くさらさらとした髪に指をからませて、小さな声で囁くように呟く。
愛してるのだと、何度伝えてもなかなか伝わらないルルーシュだから、なぜだろうか自然と声は小さく囁くようなものになる。
「君が、今となりにいることを祝いたい。君と出会えたあの夏も、再会したあの夜も・・・すべて君が生まれてくれたからこそあるものだ。」
「少し、おおげさじゃないか?」
「いや、それでもまだ足りないさ」
藤堂は腕を回してそのままゆっくりソファの上へルルーシュを押し倒してその上に覆いかぶさる。
「君がいなければ、俺は君を愛することさえできなかった。だから、おめでとうと言われるのが嫌ならば、ありがとうと言わせてくれ。」
満面の、とは言い難い・・・。
それでもルルーシュは微笑んで、藤堂の背に腕をまわした。