★ 月下に咲いた

ようやく藤堂さんが帰ってきましたよ。
最初の数話に出て以来、全然出てませんでしたから・・・。

そんな藤堂さんに贈る格言？

「刀のない藤堂なんて、ただのおっさんだ！」

藤堂にとってゼロというのは指揮官としては優秀であっても、人間としてはあまりかかわりあいになりたくない人種のはずだった。
正直いって片瀬は自らの命を断つほど肝の据わった男ではない。
もしそんな男であったなら、日本軍はもっと早くに潔く散っていたことだろう。

だとすれば、あのタンカー爆発は何者かの仕業ということになる。

片瀬をとらえようとしていたコーネリアでないとすれば残るのはゼロ。

作戦のためにはどんな犠牲もいとわない。
確かに優秀な指揮官であるだろう。
だが、その犠牲の中にはおそらく自軍の兵士も含まれる。

そんな人物にまさか娘がいるなどとだれが思うだろうか。



だが、扇の言葉が事実なのだということは藤堂にもすぐにわかった。


明け方近く、目がさえてしまい月下の整備やシュミレーターを使用していた藤堂の耳に確かに届いたのだ。
赤ん坊の泣き声が。
そしてその泣き声に続く小さな子守歌。

やがて歌と泣声は遠のいていき、また静けさが帰ってくる。

低くもなく高くもない落ち着いた歌声が耳に心地よかった。
だが、あいにく夜泣きをしている赤ん坊のことは、あまり知られていないらしい。

ということは、あの子守歌を知っているのも自分だけということで・・・。
ゼロがわが子のために子守歌を歌っているなどというシュールな絵面は少しばかり面白いと思った。
それと同時に人間らしいところもあるのだな、と。


その歌を聴くためだけにわざわざ早起きをして、木刀を片手に格納庫へ行く。


歌が聞こえてくるまで素振りをして、歌が聞こえたら休憩。
そうして遠のいたころにまた素振りを始める。
それが黒の騎士団へ来て、まず最初にできた藤堂の日課だった。



＊＊＊＊＊

その歌が聞かれているとも知らず、ルルーシュはマリアを腕に抱えて通路を歩いていた。
大体、明け方近くにマリアは目を覚まして泣き声をあげる。

幸い今のところ苦情は来ていないが、果たしてそれは気を使われているのかはたまた気づかれていないのか。

こうして抱えて歩いてやれば多少落ち着くのか今は大きな眼をきょろきょろとさせてあちらこちらへ視線を送っていた。


最近とみに思うのは、父親に・・・・・・藤堂に会わせるべきかどうかということ。
すなわちそれは自分がゼロであるということを明かすことになる。
だが、それ以前にそもそも。

「信じては・・・もらえないだろうな」

藤堂と体をつなげたのは一度きり。
その一度で子供が出来たなどと言って誰が信じるだろうか。

いや、事実できてしまったのだからどうしようもないのだが。
それ以外にも懸念することは山ほどある。

一人で勝手に産んだ子供だ、藤堂が迷惑しないとは限らない。
子供が嫌いだとは思わないが、ブリタニア人とのハーフの子供を喜んでくれるとは思えないし増しては自分は皇族だった人間。

「迷惑に思われる要素の方が、多すぎるな・・・。」

「ぅ・・・？」

「なんでもないよ・・・」

どちらかと言えば藤堂に似た黒髪はルルーシュの色よりも浅い。
これが唯一、藤堂の血を継いでいる証だろうな、と片手で抱きかかえながらまだ柔らかなその髪をなでた。

「ごめんな、不甲斐ない母親で。」


それが通じたのかどうかはわからない。
けれどマリアはぎこちなく笑ったように見えた。